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SS『the old days』

連投スイマセン、バナナ魚SS『the old days』アップ。

ケイン視点のシンと暁(婚約後)。
書き始めはもっと軽いノリだったんですけど、どんどん真面目な話になっちゃいました。ケインのその後とか捏造甚だしいですが、こうだったらいいなという願望もこめて。

原作でも、ケインが実はすごく好きだったりします。味がある人だったなぁと。
唯一、ストリートキッズの中でアッシュと対等だった人でもあるし。対等、というのは少し違うかな。アッシュが一目置いていた稀有な人物ですよね。
アッシュとケイン、ケインとシン、或いはこの3人の組み合わせでリーダー会議とか、もっと見てみたかった気もします。
ケインとシンは、あの原作後もずっと長く付き合いがあったと想像してます。

ちなみにこの同タイトル(邦題は「在りし日」という意味合い)で、他の人視点をいくつか書いてるんですが、内容がどうしても過去に触れるとなると、ケインの話と微妙に被っちゃうっぽいので書く意味あるのかな〜どうしようかな〜と考え中・・・。そういえば昔書いた伊部さん視点の話も同じような感じですね。


ーーーあと補足ですが。
暁が18歳で結婚したことを受けて、過去にアップしたお話もちょこちょこ直せる範囲でこっそり修正かけてます。
何でだか20歳で結婚したとずっと思い込んでいたので、自分設定を変更したほうがいいかなあと模索中。とりあえず、本文中の明確な時期や季節をぼかすことにしました(笑)。
話の雰囲気上、どうしても直せない(直したくない)箇所はあえてそのままにしてます。なのでシリーズ通して齟齬が出て来たりしますがその辺はさらっと流してくださいませ。
・・ちゅうか、18で結婚て早いよ!留学とかしてる暇ないやんかぁ〜!いったいどういう経緯があったのか気になってしょーがない。普通に考えたら、成人するの待ってから入籍でもいいじゃないですか。それを何か急がなきゃいけない事情がシンのほうであったのかなーと・・・色々妄想つきまじ、ですね。




バナナ魚/シン×暁+ケイン






『the old days』




~ケイン・ブラッド





念願の弁護士になった俺は二年前、所属していた弁護士事務所から独立しダウンタウンにようやく自分の城を構えることができた。
良い部下や仲間にも恵まれ仕事も何とか軌道に乗った頃、ついでというわけではないが結婚もした。最初の事務所で知り合ったワイフとの間に男女それぞれ一人ずつ子どもも授かり、それなりに忙しい、けれど充実した日々を送っている。

そんな中、ミッドタウン・ウェストにある某ホテルで依頼人と仕事の打ち合わせが入った。

普段は足を踏み入れない高級ホテルの一階ラウンジ。場違いな居心地の悪さに辟易しつつ打ち合わせが終わった頃には既にいい時間になっていた。依頼人とホテルのバーで軽く一杯ひっかけた後、さぁ事務所に戻って残った仕事でもするかと依頼人と別れロビーを横切った時だった。
大理石の柱を背に立つ大柄な男が視界に入って、俺は思わず足を止めた。
「シンーーーか!?」
「え?・・・あ、」
突然呼びかけられて顔を上げたその男ーーーシンは、一瞬驚いた表情をした後すぐに破顔した。
「ケインじゃないか!」
「ハッハー!こんなとこで会うなんざ、びっくりだ。久しぶりだなーーー半年ぶりくらいか?」
「そうだな」
「今日はこんなところでどうした。お前さんも商談か?」
「いや、今日はオフ。さっきまでリンカーンセンターでオペラを観てた。今から上のレストランでディナーなんだ」
「お前がオフにオペラだと?」
大仰に驚いてみせるとシンは憮然とした。
「偶々スポンサーからメトロポリタンのBOX席のチケットを譲られたんだ。どうせガラじゃないってんだろ、わかってるよ」
そこで初めて俺は「上でディナー」と言ったシンが、一人ではないことにようやく気付いた。
よくよく見ればビジネス時のシンとは少し違っていた。髪はある程度整えていたが前髪はラフにしているし、仕立ての良いディナージャケットに黒蝶貝の揃いのカフスとスタッドボタン、同じく黒のボウタイを合わせた姿はドレスコードに引っかからない程度の装い。そして女物のショールを腕に掛けていた。大方相手がレストルームかどこかへ行っているのを待っていたのだろう。
そりゃあそうか、こんな時間にこんな場所にいるってことはーーーまぁ、そういうことなんだろう。
「ふん。似合わねえ芝居見て、五つ星ホテルで夜景を見ながら食事して、だ。当然予約済みのスィートルームで今夜はお楽しみってとこか」
どうみても本命のデートコースに「こっちは仕事だってのに羨ましいぜこの野郎」と揶揄うと、シンは苦笑した。
「下品な言い方するなよ。そんなんじゃなくて・・・」
言いかけたシンの言葉を遮るように俺は「あ!」と小さく声を上げた。本命、ということはーーー確か。
「そうだ!そういやお前、聞いたぞ。結婚考えてる娘(こ)がいるらしいな!その娘と一緒なのか?」
「なっ・・・」
シンはぎょっとしたようになんであんたが知ってるんだ、という顔をした。俺はしてやったりの笑みを浮かべて「何で知ってると思う?」と先回りして言った。
「実はな、こないだ裁判所に見知った男が公判の傍聴に来ていてな」
「あんたが担当しているやつか?・・・あっ、まさか」
「そうそう、そのまさかーーーマックス・ロボだ」
「あー・・・・やっぱりあのおっさんか・・・まったく、口が軽いな」
まだ黙っててくれって言ったんだけどなー、と眉根を寄せてぶつぶつ言うシンは、俺からしてみればまだ学生気分の抜けていないどこにでもいる若造のようで、とてもニューヨーク華僑を束ねるやり手のビジネスマンには見えない。
「ほぉ、どうやら結婚話はガセじゃないらしいな。で、どこのお嬢さんを捕まえた?市長の娘か?それとも一族某のごり押しにとうとう根負けしたか」
どういう相手かまではマックスからも聞いていなかったので、興味津々で訊ねるとシンは肩を竦めた。
「まさか。俺が今更そんなめんどくさいとこから嫁を貰うわけないだろ。どっちも違うって」
「じゃあ、どういう相手なんだ」
「結婚相手くらい好きにさせてほしいからな・・・・普通の子だよ」
「だから普通ってのはどういう、」
「何だよ、ブン屋みたいに根掘り葉掘り」
「いやなに、お前さんみたいな面倒な立場の男と結婚しようなんて酔狂な娘がいるとは思わなかったんでな」
「ひどい言い草だなあ」
口では軽口を叩いたが、実際のところ上流階級の女からしてみればシンとの結婚はーーー人種の壁がそこそこあるにしろーーーそれが弊害になるどころか、ステイタスだろう。いわゆる玉の輿というやつだ。しかし生半可な覚悟がないと伴侶として添えない相手でもあった。シンはそんな自分の価値とリスクをよく判っている男だった。だからこいつが結婚に慎重なことに仲間内の誰もが知っていたため、そういった話を今まで殆どしたことはなかった。
「水臭いぞ、俺には紹介してくれないのか?」
「いや、あんたには招待状を出す前に改めてちゃんと会わせるつもりだったんだよ。・・・ま、いいや。とりあえず今紹介しとくか」
「なんだ、やっぱり今日一緒の相手か」
「ああ。ーーーほら、来た」
シンの視線の先を目で追うと、東洋人だろうかーーー黒いロングヘアが遠目に見えた。まだ少女とおぼしきアジアン・ビューティををまじまじと不躾なほど眺めた後、俺はぐいとシンの首根っこを捕まえて引き寄せた。
「おい、あれは未成年じゃないのか!?」
「ああ、まぁ・・・歳のことはあんまり言いたくないけど・・・今年18歳」
「じゅ・・18だと!?ちょっと待て、シンお前いくつになった」
「28になるな」
「おいおい、10も離れてるじゃねえか!」
お前ロリコンだったのかよ!?と、場所を弁えて小声でがなり立てるとシンは胸の前で困ったように手を振った。
「違うって!たまたま惚れた女が10も年下だっただけだ」
「たまたまだとぉ!?それにしたってお前・・・、」
むさくるしいデカい男二人がホテルのロビーのど真ん中でひそひそやってると異様に目立つ。周囲がじろじろと見る中で俺は半ば羽交い締めにしてシンを問いつめた。
「いったい何の冗談だ!まさか金にモノを言わせたとか、無理矢理拐わしたとかじゃないだろうな!?」
「何でだよ!本気で口説いて口説きまくった末にやっとこないだOKもらったとこなのに、人聞きの悪いこと言わないでくれ」
「マジかよ・・・こいつは驚いたな!結婚に全く興味を示さなかったお前さんがねえ・・・。同じチャイニーズか?」
「んにゃ、日本人。ついでに言うとだな、彼女のアメリカでの後見人は英二だ」
「英二だと?」
「伊部のこと覚えてるか?彼の姪なんだ」
「伊部・・・ああ、確かマックスの友人だったか」
そして英二のカメラの師だったはずだ。伊部とは個人的にそれほど親しいわけではないが一応見知ってはいる。・・・しかし、それにしても。
俺が呆然としている間に件の娘が目の前にやってきた。東洋人が若く見えるということを差し引いても、ヘタすれば18歳にすら見えないのではないだろうか。しかし改めて見ても美人だった。場所柄うっすらと大人っぽい化粧をしているが、それでもまだ「可愛らしい」という形容詞のほうが似合う年頃だ。上品な刺繍レース仕様のサーモンピンクのショートドレス(俺は女物の服なんぞよく知らんがオーガンジーというものらしい)は若い彼女によく似合っていたが、小振りのクラッチバッグと足元のファーパンプスはシックな黒でまとめられており、フェミニンな服装と対照的でどこかエキセントリックな印象を受ける。おまけに肩に流れる艶やかなぬばたまのロングヘアはかなり人目を惹いており、他の客たちが彼女とすれ違うたびに感嘆を表情に貼付けて振り返っていく。
「シン、お待たせ」
そう言った彼女は不思議そうに俺を見て、次いでシンに問いかけるような視線を向けた。シンは手にしていたショールを彼女の肩に掛けると、俺を紹介した。
「アキラ、このいかついオッサンはケインっていうんだ。昔からの仲間だよ」
「誰が仲間だって?そりゃ何のジョークだ」
笑いをかみ殺しながら凄むフリをしてシンを小突くと、昔チビだった男はわざとらしく「ああ、悪友?それともただの腐れ縁か」と小突き返してきた。
「まぁなんでもいいさ。要するに大事な友人のひとりってことだ」
こう見えても敏腕弁護士だぞ、と自分のことのように自慢げに紹介するシンに俺は面映い気持ちになる。まさかあの頃の俺たちがこんな上等なホテルで顔を合わせてるなんてなあ。まったくこれこそアメリカンジョークだ。
可愛らしく小首を傾げた美少女は、再び俺を見上げてぺこりと頭を下げた。
「アキラ・イベです、初めまして。お会いできて嬉しいです」
「こちらこそよろしく、お嬢さん」
握手を求めるとにこりと笑んだ彼女が小さな手を差し出した。なんて細っこい腕だろう。シンみたいな大きな男が抱きしめたら折れちまうんじゃないかと余計な心配をしてしまいそうな華奢さだ。
俺の内心の感想など知る由もない彼女は改めて俺を見上げると、去年アカデミー賞を取った某俳優に俺が似ていて渋くてカッコいいとはしゃいだ。裏表のない、掛け値なしの素朴な賞賛の言葉に俺はすっかり気分がよくなり、上機嫌で握手したままだった手をぶんぶんと振って礼を言った。
「いやあ、シンにはもったいない可愛らしいお嬢さんだ。それに人を見る目もある」
「おいアキラ、こんなオッサンにお世辞言っても何も出ないぞ」
「なんだと、お前の会社が訴えられても弁護しねーぞ!・・・しかしお前さん、よくこんなややこしい男と結婚する気になったな!それだけでもグレイトだよ」
俺は懐から名刺を取り出し彼女の手に握らせた。
「もしシンが浮気でもして離婚したくなったら俺に言いな。たんまり慰謝料ふんだくってやるからな」
「ちょ・・、ケイン!冗談でもそういうこと言うなよ!」
「うるせえ。捨てられないようにせいぜい気をつけるんだな」
「結婚式に呼んでやらないぞ」
「いいよ、彼女に呼んでもらうから。なぁ?」
「もちろん」と頷いた彼女は黒髪を耳にかけながら、渋面の婚約者に向かってチロリと舌を出した。その仕種が恐ろしくキュートだ。こういうのを小悪魔と呼ぶんじゃないだろうか。シンはきっと、これにヤラれたに違いない。
「・・・まったく・・・・」
頭を抱えたシンにひとしきり笑うと、シンがふと胸元に手をやった。マナーモードにしていたらしい携帯が震えている。それを耳にあてながらシンが「悪い」と少し場を離れていった。話し方から察するに仕事の相手らしい。シンが電話しているのを二人で眺めながら、俺は少々真面目に彼女に問いかけた。
「ところでお嬢さん、あいつと本気で結婚する気か?言っちゃなんだが、10も年齢(とし)の離れた男だぞ」
「確かに離れてますけど・・・でも私が25になった時シンは35です。それだとそう違和感もないですよね」
「そりゃそうかもしれんが」
「私も正直、こんな早く結婚するつもりなかったんですけど・・・シンのほうが待てないらしくて」
「まぁ、あいつのほうはなぁ・・・」
シンが待てない気持ちは判らんでもない。うっかり情報が漏れて煩い御仁どもに横槍入れられる前に自身の結婚問題にケリをつけたいんだろう。或いは若い彼女が、時間が経つにつれ怖じ気づいて逃げ出すのを防ぐためか。・・・その両方かもしれない。
「しかしな、年齢だけの問題じゃない。あいつに添うのは大変だぞ。ニューヨークにでっかいビルを持ってる成り上がり社長ってだけならまだいい。あいつのバックには李家や中国華僑が控えてる。これがどういうことかわかるかい?」
「・・・ええ、判っているつもりです。シンから全部聞きました。自分の生い立ち、李家のこと、過去ーーーーアッシュのことも」
「あんた、アッシュのこと知ってるのか?」
「話は聞いてます。叔父からもシンからも・・・それに、奥村さんからも」
「そうか・・・」
「それにあの人、私の前でしか泣けないから」
「え?」
あいつが泣く?ーーー聞き間違いかと首を傾げると、彼女は少し考える素振りをしてから話しだした。
「シンと初めて逢ったのは私が13歳の時だったんですけど。奥村さんが初めてニューヨークで個展を開いた夏のことです」
その個展には?と訊かれ、俺は記憶を辿るまでもなく頷いた。
「その個展のことはよく覚えてる。英二が初めてアッシュの写真を出したからな」
「私もその時いたんです。夏休みに初めて海を渡って、ニューヨークの奥村さんのところにホームスティして。シンと一緒に個展の手伝いとかもしてました」
「じゃあ、もしかすると俺たちは会場で会ってたのかな?」
「どうでしょう。私もいつも会場にいたわけじゃないから、すれ違っちゃってたかも。打ち上げの時もいませんでしたよね?」
「ああ、打ち上げには出てない。俺はその頃駆け出しの弁護士業で多忙でなぁ・・英二たちにも滅多に会えずにいたんだ。あの個展の時は『アッシュの写真が出てるから絶対見に来い』っていろんなヤツに言われてな。何とか仕事の合間をぬって見に行った」
それまで頑なにアッシュのことを一切話題に出すことがなかった英二が、初めてアッシュの写真を出したあの個展のことは俺たちにとっても実に衝撃的な出来事だったーーーーきっと一生忘れることはないだろう。
「アッシュのことを知ってる連中にとって、あの個展は特別なものだ」
「そうなんでしょうね・・・打ち上げの時は内輪のメンバーだけだったんですけど、皆がアッシュの思い出話をしてましたし。それに私にとってもあの夏は特別なんです」
あの時ニューヨークに来なかったら、今の私はないんですーーーと彼女は静かに言葉を続けた。
「初めて逢ったあの夏から、シンは私に何一つ隠すことなく、折りにふれ本当のことを話してくれました。アッシュと奥村さんのこと、お兄さんの過ち、自分がしてきたこと・・・」
「・・・・・」
「シンは私には素の表情を見せてくれてました。どうしてだかわからないけど、初めから心を許してくれてたように思います。きっと私が何も知らない子どもだったからでしょう。私は子どもの浅はかさで何でも彼に訊いてました。奥村さんに訊けないことも、どうしてだかシンには訊けたんです。今思えばですけど、私もシンも根っこの部分できっと同じような痛みを抱えていたんだと思います。だから共鳴したのかな・・って」
「同じ痛み?」
「ええ。シンは私の中に自分と同じ苦しみを見たのかも」
彼女はごく簡単に当時の自分の境遇を俺に聞かせてくれた。
「・・・もちろん私の悩みなんてシンや奥村さんの抱えてたものに比べたらちっぽけなものだったけど、でも子どもなりに傷ついてました。つらくて必死でもがいて苦しんで・・・でもそれをうまく外に出せなかった。心のどこかでSOSを出してた。それを奥村さんはもちろんですけど、シンも何となく感じ取ってくれてたんだと思います」
これ後から聞いた話なんですけど、と彼女はどこか懐かしむような目をした。
「シンはあの当時、奥村さんを救いたいって思ってたらしいけど、同時に自分も救われたいって心のどこかで思ってたのかもしれませんね。私、つらい経験がある人は他人にも優しくできる人だと思うんです。・・・だからかな、元々の性格もあるんでしょうけど・・・彼は初対面の、10も年下の小娘相手に辛抱強く付き合ってくれました。当時から忙しい人だったけど訊けばいろんなことを教えてくれたし、何でも真摯に接してくれた。そこに嘘もごまかしもありませんでした。確かに私は子どもでしたけど、だからといって子ども扱いはしなかった。ちゃんと一人の人間として対等に向き合ってくれた・・・ずっと、そうでした。今まで彼と一緒にいた時間はそんなに多くないけど、それ以上のものをたくさん貰ったから。だから私、シンの行動や言葉を無条件に信じることができます」
「そうか・・・・」
俺はしんみりと感じ入った。
昔はーーーそう、アッシュが生きていた頃、シン・スウ・リンというヤツは喜怒哀楽のわかりやすい少年だった。今でもその印象はあまり変わらないが、しかしアッシュの死を境に人前で泣かなくなった、と今更ながらに気がついた。普通は男の涙なんてそうそう見るもんじゃないからそれは当たり前かもしれなかったが、シンは誰の前でも構わず泣いたり怒ったりする印象があったから違和感があったのだ。思い返してみてもアッシュの死以来、シンが泣いてる姿なんぞ俺は見たことがない。アッシュを殺めたのがよりにもよって自分の異母兄、崇拝する男と兄を一度に失い、さらに兄の罪の責任を感じてーーーどれほどの重圧と悲哀を背負ったのか。情に厚い少年は影でひっそりと泣いていたに違いない。とても英二の前で涙を見せることなどできはしなかっただろう。
あいつが英二やアッシュのかつての仲間、家族との板挟みでずっと苦しんでいたのを俺やマックスは知っている。あの写真展を機に英二がやっとアッシュの死と向き合えるようになるまで、シンは自分の幸せはずっと後回しにしてきたのだ。けどもう、解放されてもいいはずだ。長い年月苦しんだ分、そろそろ自分の未来を考えたっていい頃合いだ。
そしてやっとシンは見つけたんだろう、一生ともにしたい相手を。本音を零せる相手を。アッシュのように守りたいと思える存在を。それはとても幸運なことだと思った。
と同時に、俺はもう一人の男を思い浮かべる。奥村英二。英二も同じだ。柔らかな笑みが似合う心優しかった青年は親友の死からずっと、感情をどこかに置き忘れたような顔をしていた。だからあの個展で俺を迎えてくれた英二の、昔と変わらない笑顔を見た時、俺だってガラにもなく目が潤んだもんだ。
・・・英二は今、幸せだろうか。アッシュの死をやっと受け入れて、今度こそ本当に前を向けて自分の未来を見ているんだろうか。ずっと聞けずにいたことを今度聞いてみたい、とふと思った。
「そうか・・・あんたの前だとシンは泣けるんだな・・・」
「あとは、そうですね・・・奥村さんの前でも泣くかもしれませんけど。彼は私にとってもシンにとっても特別な人だから。でも他の人の前でシンは弱音吐かないから。だから私じゃないとダメなんですって」
彼女はシンのほうを見つめながら柔らかく微笑った。その柔和な横顔がアッシュを慈愛の目で見ていた若い英二の姿と重なる。
「結婚なんて無理って私、何度もシンに言ったんです。シンの足枷になるからって。でもシンが諦めてくれなくて。・・・結局、根負けしちゃった」
ふふ、と照れたように笑う少女は、さっきの小悪魔なものではない、俺のようなスレたオッサンでもどきりとするほど大人びた表情だった。
「だから私、覚悟を決めたんです。他に誰もいないのなら私がシンの傍にいてあげようって。あの人が私の前でなら素の自分でいられるっていうのなら、何も持っていないこんな私でも何か役に立つことがあるのかなって。あの人、背負ってるものがたくさんありすぎるから時々息抜きさせてあげないと。私くらい、何の肩書きもないただのシンを見てあげなきゃ過労死しちゃうもの」
「・・・・あんた、いい嫁になりそうだ」
俺のしみじみとした言葉に彼女はゆっくりと首を振った。
「そんなことないです。ホントは不安でいっぱいなの。どこにでもいる平凡な女の子でしかない私に実際のところ何ができるとも思えないし。どう考えても風当たり強そうですし。シンのお荷物になりそうで、私の存在がいつか彼を窮地に追い込むことになるんじゃないかって思うと・・怖いです」
ああ、そうか、と納得した。何も持たないただの少女だったからこそ、シンは惹かれたんだろう。本当の自分でいられる場所、本当の自分を見せられる相手。・・・かつて「白い悪魔」と恐れられた男が、何の役に立つとも思えない朴訥な日本人の青年を傍に置いていたように。
「大丈夫だろ。シンがそんなことさせやしないさ」
「そうだといいんだけど。叔父さんやマックスなんかは、いまだに『結婚やめるならまだ間に合うぞ』とか言ってくるんですよ」
マックスたちには交際を当然のごとく反対されたんだそうだ。そりゃあ、アッシュと英二を見てきた連中にしたらそうだろうなと思う。同じ道を辿るんじゃないかとさぞや心配なことだろう。当時、シンはアッシュに心酔していた。そしてあいつのポリシーや考え方をなぞるように生きてきた。その根底にあるのは怒りと憤りだ。アッシュの死を経て、シンはまるでアッシュが生きていたらやりそうなことを代わりにやってきたようなものだ。あの頃の不条理や理不尽をぶちこわすようにシンは破竹の勢いでチャイナタウンをまとめあげ、あのユーシスーーー李月龍を補佐し、ともに李家の長老どもをコントロールしてとうとうニューヨーク華僑のトップにまで登りつめた。奔放で人好きのする社交的なスタイルと豪快な手腕で味方も多いが、逆に先進的な改革を嫌う保守派をはじめとする一族絡みの敵も多い。
しかし、やっと見つけた生涯守るべき相手までもアッシュと同じく日本人とは。そんなとこまで似なくてもいいのに。
「じゃあ、俺もその過保護なオヤジ連中の一人になってシンにプレッシャーかけてやろう。若い女房に愛想つかされんようしっかり働け!ってな。さぼってやがったら俺が容赦なくヤツのケツを蹴っ飛ばしてやるから安心しな」
「なんですか、それ?」
くすくす笑う彼女に、軽くウィンクをする。
「昔からあいつは気のいいやつだった。つらいことが多かった分、幸せになってほしいと思ってる。・・・だから、あんたみたいな娘がシンを選んでくれて嬉しいよ」
親愛をこめて軽くハグすると、彼女は「そう言っていただけると私も心強いです」と頬にキスをくれた。そして背伸びをして俺の耳に唇を寄せ「さっきの話、シンには内緒にしててくださいね」と囁いた。
「あ、こら!何やってんだよ、オッサン!」
携帯を仕舞いながらシンが戻ってきた。
「うるせえな。これからもよろしくってぇのをハグで表現してたんだよ、なぁ?」
「ええ」
「俺も『過保護なオヤジの会』会員になったからな、覚悟してろよシン」
「はぁ?」
なんだそれ、と眉を寄せるシンに小声で「泣かせるようなマネしたら承知せんぞ」と言うと「誰に言ってる」と不敵な笑みを返された。
ヤツの目の奥に宿る本気にいたく満足して頷くと、俺は腕時計を見た。
「じゃあ俺はそろそろ事務所に戻る。なにしろお前さんたちと違ってこっちはまだ仕事が残ってるんでな」
「ケイン、そのうち招待状出すから」
「OK。結婚式、楽しみにしてる」
互いに笑顔で別れ、俺は踵を返す。
少し歩を進めたあと、俺はふと足を止めた。ーーーーしまった、そういや肝心なことを言い忘れた。
「シン!」
振り返ったシンとお嬢さんに、俺は軽く拳を上げた。
「まだ言ってなかったな。ーーーーーおめでとう!」
シンはちょっと目を見張り、すぐに「ありがとう」の代わりに手を挙げた。その傍らで彼女が小さく頭を下げる。
二人ともいい笑顔だった。それにふっと笑うと俺は今度こそホテルを出る。

おめでとう。
どうか、幸せに。
そう祈るとともに、朝日を浴びて幸せそうに目を閉じるブロンドの青年の姿が眼裏に浮かんだ。


ーーーーーどうか、あいつの分まで。





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ケインは検事か弁護士か、さもなくばNY市長とかになってるといい。最有力候補はやっぱり弁護士かなーと思う。文中の某ホテルはマ○ダリン・オリエンタルあたりを想定。
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【 2015/05/25 】 SS | TB(-) | CM(0)
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プロフィール

チャコ@まま

Author:チャコ@まま
関西在住のおたママ。
只今三人の息子達を相手に育児奮闘中。

マンガ・小説・アニメ・特撮・舞台・ジャニ等、大好きなもの雑多な管理人です。
09/侍の殿様と11/海賊の船長と単車乗りの鳥系幹部を愛してます。現在、人類最強兵長敬愛中。

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