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SS『クリスマス・ランデヴー』

SS『クリスマス・ランデヴー』アップ。

バナナ魚でシン×暁。ほんのり大人風味のクリスマスネタで。

※4/12、少しだけ表現等手直し訂正しました。


ちょっとだけ、遅刻ですね・・・・イヴに上げたいお話だったんですが!
なのでこそっとイヴに日付合わせときます、すいません。久しぶりにちょっと長い1本なのできちんと表示されるかな。
もっと短い話だったんですけど、途中でいろいろ書き足したいことが出てきて、でもそれを入れるとなるとクリスマスには絶対更新できない!と結局削りました。
ジェシカとか小英視線の小ネタを挟みたかったのになー。リベンジできそうならいつか改訂しよ。

さてこれから進撃ネタも書かないと・・・これこそ25日に間に合わないな・・・。
とりあえず兵長、ハピバ!


バナナ魚/シン×暁







『クリスマス・ランデヴー』








「パーティに連れてってやるからこのカードで服買っておけ」
シンにいきなりそう言われたのは、クリスマスイヴの僅か一週間前のことだった。
暁はどんなクリスマスケーキを作ろうかとレシピ本をめくっていた手を止めた。差し出されたクレジットカードを戸惑いつつ受け取り、ブラックカードなんて初めて見たとしげしげと眺めながら首を傾げた。
「パーティ?」
「そう。どうしてもこれだけは出てくれって小英にきつーく言われてるのがあるんだ。で、ちょうどイヴの日だしお前もどうかと思って」
折角のイブだろ?一緒に過ごそうぜとシンはご機嫌に言い添えたが、折角のイブだからこそ暁はパーティよりも二人で過ごしたかった。
いわゆる「コイビト」という関係になってから、初めて迎えるクリスマス。
尤も「仕事の可能性が高い」と前々から言われていたので、暁は実のところまるで期待していなかった。そもそもカップルのイベントと化している日本と違って欧米では家族とクリスマスを過ごすのが慣例だ。きっと仕事だろうからとか、シンだって家族と過ごすだろうとか、勝手に思い込んでいた。だから暁はシンと二人で過ごせないなら仲間内のパーティを楽しもうと、さっさと気持ちを切り替えていたのだ。なのでこの申し出は意外といえば意外で、内心嬉しく思いながらも控えめに言った。
「あたしなんかが、そんな大事なパーティに一緒に行ってもいいの?」
シンの立場は理解しているつもりだ。それ以上に自分の立ち位置も。
「いいから誘ってるんだ。仕事絡みには違いないが基本的にクリスマスパーティだし、新年の挨拶も兼ねてるしな。商談のための集まりじゃないからフランクなもんだし」
「ふぅん・・・・」
仕事関係者やセレブの集うパーティなんて、正直暁には場違いだ。マンハッタンにいくつもビルを持っているシンは間違いなくセレブだしそういう場所に出入りするのは当然の人間だが、付き合ってる暁のほうはただの平民、小市民。しかもまだお酒も飲めない未成年ときている。奥サンでも親族でもないのに分不相応甚だしい。ほいほいついていけば間違いなく浮いてしまって身の置き所がなくなることくらい、シンが一番わかってるに違いないのに。だから今までも暁をそういう場所に誘わなかったのではなかったか。
気乗りしないままレシピのページをパラパラと捲る。やっぱり作るならブッシュ・ド・ノエルかな。
「・・・マックスんとこのホームパーティはどうすんの。イブの夜から集ろうって言ってたじゃない」
「そっちは25日だけでいいだろ。マックスにはもう伝えてある」
まさかの事後承諾に暁は唖然とした。座っていたカウチから身を乗り出し、キッチンでコーヒーの用意をしている英二を振り返る。
「ちょっと奥村さん今の聞いた!?シンってば勝手に決めちゃってるんだけど!」
「うん。僕もさっき聞いた。えーと、それであーちゃん、実はね・・・」
言葉を濁す英二の代わりにシンが口を開く。
「英二もイブは仕事関係のパーティに顔出すことになったってさ」
「ええー?」
暁はカウチにレシピ本を放り出して不満げに口を尖らせた。クレジットカードをシンに押し返し、英二へ恨みがましく目を向ける。
「ひどぉい、奥村さんっ。あたしそんなこと聞いてないよー」
「ごめんね、こっちも急に決まったんだ。シンがあーちゃんを連れて行くって言うから、じゃあ顔だけちょっと出そうかな思ってね。25日は僕もマックスのところに行くし、折角なんだからイヴはシンとパーティを楽しんできたらいいんじゃないかな?」
「パーティかぁ・・・」
そもそもシンがクリスマスは仕事入るかもしれないって言ってたから、じゃあ英二やマックスたちと一緒に夜通しパーティしようってことになったのだ。それだったら仕事が何時に終わろうとシンだって途中で顔を出せるし、暁も寂しいクリスマスを過ごさずにすむってことで。
気のすすまない様子があからさまだったせいか、シンも苦笑する。
「オレもあんまり行きたくないんだが・・・上客が主催だしな。それに後々のこと考えたら今回はお前も連れていくほうがいいかと思って」
「どういう意味?」
「・・・・・。まぁあれだ、オレだけつまらない仕事のパーティに出るのは癪だから、お前にも付き合ってもらおうってこと!」
「何それ!」
暁は行儀悪くあぐらをかいて眉間に皺を寄せた。
こんな言い方はしているが、シンが暁のことをちゃんと気にして連れていこうと考えてくれてたらしいことは嬉しいのだけど。
でも。
シンは忙しい。まだ学生の暁と違って、10も年上の立派な大人で地位もある彼があっちこっちへ顔を出さなければいけないのもわかっている。特に年末のこの時期、引っ張りだこになるのはしょうがないのだろう。それもこれも承知の上で付き合い始めたのだ。
黙ってしまった暁を、何を勘違いしたのかシンが機嫌を取るように慌てて言い繕う。
「立食で堅苦しいもんじゃないし、アキラはうろうろしてればいいから。有名パティシエのスィーツとかあるみたいだぞ。お前そういうの好きだろ?それにゲストはお前がよく聴いてるシンガーが歌いにくるし、会わせてやるよ」
「んー・・・」
今年の全米ヒットチャート連続1位の女性シンガーの名前を挙げ、さらに映画俳優だのコメディアンだの、それこそこんな機会でないとお目にかかれないような出席者の名前をシンはいくつか口に上らせた。おおスゴい、と思わないでもないが、そんなテレビや映画でしか見たことないような大物が顔を揃えてるんじゃ余計に肩身が狭いじゃんと暁はそっと溜め息をついた。
暁の気も知らずシンはそうそう、と駄目押しするように言った。
「気の乗らないパーティに付き合わす詫びに、帰りにマンハッタンのツリー見に連れてってやるから機嫌直せ、な?」
「え、ホント!?」
ついうっかり反応してしまい、シンがにやりと口の端を上げた。
・・・うっ、見透かされてる。
暁がロックフェラーセンターのクリスマスツリーを見に行きたがっているということを、シンはどうやら知っていたらしい。今まで暁が渡米していたのは殆どが春や夏で、念願の留学を果たした今年はニューヨークで過ごす初めての冬なのだった。だからこのクリスマスに世界一有名なあのツリーを見たいと密かに思っていたのだ。言ったことはなかったはずだが、そういうところは彼はいつも抜かりない。そしてシンが大人だと改めて実感する瞬間だったりする。そう、何もかもお見通し。暁が何を好きか何に興味があるか、言葉にしなくても把握している。お前の考えてることなんてちゃんとわかってるーーーそんな顔でいつも先回りしてスマートにエスコートして。ちょっぴり悔しくて、でも嬉しくて。結局暁はいつだって彼には敵わない。
「な、行くだろ?」
「うーん、どうしようかな~」
暁は緩みそうになった頬を慌てて引き締め、ツンとそっぽを向いた。小犬がしっぽを振るように二つ返事で頷くのは何となく癪に障るので、ここはちょっとだけ意地を張る。向こうで英二がくすくすと笑うのが目に入った。
・・・・まあいいか。
一緒にいられることには違いないのだ。だからここは恋人らしく素直に喜ぶほうがいいよね、と可愛くない言い訳を頭の中だけで暁は言ってみる。
・・・・ううん、本当は。
ホントはすごく嬉しい。別にパーティもクリスマスツリーもなくていい。あなたが一緒にいてくれるってことがただ、嬉しいの。
「言っとくけどな、お前が行きたくないって言っても今回は連れてくぞ」
お前に拒否権はないからな、と軽い調子で言うシンに暁は内心の喜びを押し隠し、取ってつけたようにしょうがないなと肩を竦めた。
「シンがどうしても、って言うなら一緒に行ってあげてもいい、よ」
素直に嬉しいと言えない暁に、シンはいつものことと気にする様子もなく改めてカードを暁の手に乗せた。
「じゃあ、決まりだ。ジェシカには俺からも頼んでおいたから、明日一緒に五番街でも行って服とか色々好きに見繕っておけよ?」
「うん。じゃあ、ちょっとジェシカに電話してくるね」
ありがとうの代わりにシンの頬にキスをひとつ落とすと、暁は足取り軽く電話をしに自室へと向かった。


リビングを出て行った暁と入れ違いに英二がキッチンから出てきた。
「コーヒー飲むだろう?」
「ああ、サンキュ」
話が終わるタイミングを測っていたのだろう、差し出されたブラックコーヒーのマグカップをシンは礼を言って受け取る。
「パーティに便乗してあーちゃんのお披露目をするつもりなのかい?」
「よくわかったな」
「そりゃあ、シンの考えることだからね」
マスコミやらパパラッチが自由に出入りできる安いパーティではない。本物の上流階級の人間だけしか招待されない場ーーーそこへシンが暁をパートナーとして連れていくということは、イコール結婚相手という意味と同義だと見なされるだろう。
シンの立場上、いつかは彼女の存在を公表せざるをえない。結婚でもすれば夫婦で出席が当たり前の業界なのだ、いつかはこんな日がくることは判っていた。だからといって暁を安易な場で社交界デビューさせればマスコミの格好の餌食になる。だから今のうちにーーーチェックの厳しい内輪のパーティで大切な顧客や信用できる人間だけに披露しておこうと考えたのだ。そうすれば事情を知る連中が後々うまく援護射撃し立ち回ってくれるだろうという打算もあった。
「あーちゃん、大丈夫かな」
英二の心配はもっともなので、シンは真面目に言った。
「俺が傍から離さないから心配するな。とりあえず今回はセキュリティも厳しいし大丈夫だ。どうしても離れる時は小英に護衛させる」
「それもあるけど・・・・うーん、そういうことじゃなくてさ」
マグを両手で包み込んだまま言い淀む英二に目で先を促す。
「君の住む世界を目の当たりにして萎縮してしまわないかと思ってね」
「今更だろ」
お互い納得づくで付き合うことにしたんだが、とシンが言うと英二は困ったような顔で言った。
「そうかな。頭で判ってても実際に同じ場所に立ったらまた違うものが見えてくるものだよ」
静かな英二の声にシンは一瞬虚をつかれたように目を瞠った。しばし静かな時間が流れる。
沈黙を破ったのはシンのほうだった。
「あんたも?アッシュと行動を共にしていた時、そんなことを思ってたのか?」
「思ってたのはアッシュのほうだろうね。僕はその溝を何とか埋めたくて彼にくっついて回ってたんだけど・・・何度も何度も言われたな。『日本に帰れ、俺はお前に見ていられたくないんだ』ってね」
「・・・・・」
「彼は僕に自分の世界を見られたくないようだった。いつもなんとか僕を遠ざけようとして、でも僕はそれが嫌で彼に無理矢理くっついてた感じだったな」
「俺にはアッシュのほうがお前を連れ回していたように見えたが」
「それはーーー結局彼の傍が一番安全だということをアッシュ自身、判っていたからさ。自分の目の届かないところでお前がふらふら勝手に出歩いて何かあったら困るってよくぼやかれたよ」
実際、そういうこともあったけどね、とその時のことを思い出しているのか英二は懐かしむように目を伏せた。
「けど、守ってもらうのもそのうち限界がきた。そして僕に危険が及ぶたびにアッシュが苦しそうな顔をするのを、僕は見て見ぬふりをしてわがままを通してきたんだ。何を言われても突き放されても、皆がひとり残らず彼から離れていっても敵になっても、僕だけは変わらず絶対アッシュから離れないって固く自分に誓っていた。危険なのはわかってたけど、そんなものまったく気にならなかったな。とにかく傍にいたかったんだ。ずっと一緒にいるつもりだった。彼をひとりにしない、その一心でね。・・・・もっとも、最後の最後までそうしてればこんな後悔をせずに済んでいたのかもしれないけど」
「英二・・・・」
ほろ苦い思いでコーヒーを飲み干したシンに、英二はでも、と柔らかな微笑みを浮かべて言った。
「シンは違うんだね」
「え?」
「アッシュは僕を遠ざけようとしたけれど、君は反対の選択をした。アッシュと違って君はあーちゃんをずっと傍に置くことを選んだじゃないか」
「・・・・伊部やマックスたちには最初、反対されたけどな」
「そりゃあね、彼らはあーちゃんの保護者みたいなものだし。いろいろ心配するのは当然だね。まぁ、相手がシンじゃなくてもとりあえず伊部さんたちは反対すると思うけど」
「お前は反対しなかったな」
「結局は君たち二人が決めることだし、当事者でない僕が口を出すべきことじゃあないだろう?それに誰が反対しても君は一度決めたことを実行しようとする男だし、事実君にはそれができる」
「買い被るなよ、俺は別にそんな大層な人間じゃない」
視線を逸らすシンを慈愛を込めた目で見つめ、英二は続ける。
「ーーーいいや、君は強い。あーちゃんを守ると伊部さんたちにタンカを切ったのは伊達じゃないだろう?それは今まで君が努力し培ってきた実績からくる自信だと思うし、それだけあーちゃんが君にとって大切だということの証じゃないか。僕は君がいろんなことに最大の努力してきたことを知っているし、あーちゃんに対しても真剣だということもその覚悟も理解しているつもりだ。僕には君たちの選択がこの先正しいのかどうか判断できないけど、どんな結果になってもそれすら二人のものだ。僕はそれを尊重するし応援しているよ」
言うだけ言ってマグを片付けると「あーちゃん、イヴの夜を楽しんでくれるといいね」と言って英二は暗室に向かう。その背中にシンは声をかけた。
「英二」
「なんだい?」
「パーティの後、アキラは此処に帰さないから。サプライズでホテルを取ってあるんだ。だから・・・そのつもりでいてくれ」
アキラには当日まで内緒にしといてほしいとシンが言い添えると、英二は苦笑する。
「うーん・・・あんまり伊部さんに隠し事はしたくないんだけどね」
「伊部には黙っててくれると助かる」
にやりと人の悪い笑みを向けたシンに肩を竦めて了解のゼスチャーをした英二は、今度こそ暗室の奥へと消えていった。
パタンと閉じられた暗室のドアを見つめたまま、シンはそっと呟く。
「君は強い・・・・・か」
髪をくしゃりとかきあげ、苦笑した。
「それは違う、英二」
シンがアッシュと違うことがあるとすれば、それは当時のアッシュより恵まれた立場にいることと彼よりも長く生きているということくらいだ。
アッシュは英二さえ傍にいればそれでよかったんだろう。それだけが彼の望みで、だがそれと同じくらい英二の身の安全が第一だった。だから自分の唯一の望みより英二が生きていられる幸せのほうを彼は選んだ。
・・・だが、シンはアッシュじゃない。

「・・・・・あいつを潔く手放せるほど、俺はアッシュほど強くないだけなんだーーーー英二」



***



セレブのパーティはさすがにゴージャスだった。
どこぞの資産家の豪邸で行われたそれは、規模自体はそれほどではなかったものの料理も出席者も演出も全てニューヨークの一流が揃っていた。
好きにしてていいなんて言われていたが、実際のところ好きにできるほど暁に行動の自由なんてなく、殆ど財界人に挨拶するシンに連れ回される羽目になった。何度見ても慣れない(しかし密かにかっこいいと思っていたりするのだが)シンのフォーマルスーツの裾をそっと引っぱり「あたし、どうしてたらいいの?」と小さく訊けば「隣で黙ってにこにこしてろ」と言われた。結局軽く紹介されるだけでシンの歓談中は邪魔にならないようにそっと脇に控えているか、談笑相手のパートナーであるマダムととりとめのない会話をする程度で済んだのだが、遠目にも感じる好奇の視線を意識しないわけにはいかなかった。
何かのはずみでふっと一人になる時間はあったが、そんな時は必ず小英が側近く控えた。きっと護衛も兼ねているのだろうが、堅苦しさに暁は思わず溜息をつく。だからレストルームに行くといって小英の眼を擦り抜け一人でテラスのひとつに逃げ込んだ時は心底安堵した。
(シンと付き合うってことはこういう場にも付き合わなきゃいけないってことなんだ・・・・)
お酒も飲んでいないのに火照る頬をさまそうと、暁はテラスから張り出したポーチに置かれたベンチに座った。美しく手入れされた庭先を眺めながらそんなことをぼんやり思う。
付き合いだして半年ほど、今までこういう公式の場に引っ張り出されたことはなかった。今後こういうことが増えるのだろうか。
サロンに目をやるとちょうどテラスの飾り窓越し、フロアの一角でシンがどこぞのマダムと談笑しているのが見えた。一人、二人とシンを取り巻く人が増えていく。
大人の洗練された女性が彼の隣にいる姿があまりにもしっくり馴染んで、暁は部屋から再び庭へと視線を巡らせた。
こうして客観的にみると、とんでもない人と付き合ってるんだとちょっとへこむ。
普段、暁や英二といる時のシンはまるでセレブの雰囲気を見せない人だから余計に。
「お前の恋人はお前なんかには釣り合わない」ーーーーそう、言われているようで。
日本ではモデルだってやっていたし、それなりに業界での振る舞い方も心得ていたつもりだが、なにしろレベルが違う。暁のようなコドモがうまく立ち回れるはずもないのだ。わかっていた。わかっているつもりだった。・・・でも本当の意味でわかっていなかったのかもしれない。
別に何を言われたわけでも冷たい視線を向けられたわけでも恥をかいたわけでもないのに、この息苦しさは何だろう。
シンのことは大好きだ。でも大好きなだけじゃ、これからはダメなんだ。
何も知らない自分のままでは、彼の隣にはこの先いられないだろう。
ーーーーー覚悟を決めなくてはいけない。
これからも彼の傍にいたいのなら。
暁はキンと冷えた冬の空を見上げた。吐く息が空気に白く淡く消えていく。
煌めく星々に祈るように目を閉じると、今一番聞きたかった声が暁の名前を呼んだ。
「アキラ、」
「・・・・・シン・・・・」
少し息を弾ませたシンが、どこかほっとしたように首元のタイを緩めながら歩み寄る。
「こんなところにいたのか。小英が慌ててたぞ、お前に撒かれたって」
「別に撒いたわけじゃないもん。・・・ちょっと風にあたりたかっただけ」
「疲れたか?」
「少し、ね。・・・人混みに酔ったのかな」
僅かに語尾が震えた暁の声に、シンは一瞬眉を潜めた。しかしあえて何も訊かず徐に自分のジャケットを脱ぐ。そして「風邪ひくぞ」と言いながら薄いショールを羽織っただけの暁の肩にジャケットを着せ掛けた。
「俺は正直、かなり疲れた。アキラがもういいなら今すぐここから抜け出したいんだが、いいか?」
「え、そんなことして大丈夫なの」
「さぁな。まあ、とりあえず挨拶回りもしたし義理は果たしたからもう充分だろ。ホストには了解貰ってあるし。俺だってこんなとこにあまり長居したくない」
「そうなの?今だって楽しそうにマダムたちとお話してたように見えたけど?」
「あのなぁ・・・・。あの曲者揃いのオバサンたちに逆らうなんて怖いマネ、できると思うか?」
げんなりと肩を落とすシンに暁は少しだけ笑う。
・・・・ああ、いつものシンだ。あたしがよく知ってる、素の彼だ。
「やっと笑ったな」
その言葉にふと顔を上げてシンを見る。優しい目で、でもどこか申し訳なさそうな表情でシンは暁を見ていた。
・・・・本当に彼には隠せない。きっと暁が少しどころではなく疲れたこともバレているのだろう。
「今日は付き合わせて悪かったな。さっさとツリー見に行くか」
労るようにジャケット越しにぽんぽんと背中を撫でられ、緊張の糸が切れる。暁の眦がじわりと潤んだ。
「うん・・・・・」
こんなところで泣くわけにはいかず、暁は必死に目を瞬いて涙を逃がした。
「あーあ、愛想笑い振りまきすぎて疲れちゃった。あたしももう帰りたい!」
「ぎこちなかったなーお前。この辺、引き攣ってたぞ」
頬をぷにぷにとつつかれ、暁はもう!とシンの胸を軽く叩いた。すかさずその手を取ってシンが恭しく腰を折る。
「では、俺と一緒に逃げてくれますか、お嬢様?」
「・・・・喜んで」
愛想笑いじゃない心からの暁の微笑みにいたく満足し、シンはその手の甲にキスをひとつ落とした。



パーティを抜け出した後、シンは約束通り暁をロックフェラーのクリスマスツリーを見に連れて行った。
夜も遅い時間だがライトアップされたツリーを見物にくる人々で辺りは賑わっている。恋人同士や家族連れ、仲間たち。性別も人種も違う、様々な人たちが愛する誰かと一緒に同じ灯りを見上げている。
そんな周りの様子を見渡した暁は微笑んだ。
抜け出した邸宅から此処に来るまでに少しだけなとシンに誘われセント・パトリック教会に寄ってミサで祈りを捧げてきたところだった。クリスチャンでも何でもないけれど、神聖な空気に触れたおかげで暁は救われたような気持ちで今、シンとふたりで空を見上げている。
マンハッタンに星が降ってきたようなキラキラと輝くツリーを見つめていると、パーティでの気疲れや余計な不安も夜空に蕩けていくようだ。
「綺麗・・・・・」
「満足したか?」
「うん!さすが世界一有名なツリーね」
上機嫌な恋人の満面の笑みにシンも目を細めた。小英の運転する車中でも暁は口数少なく何やら物思いに耽っており、パーティに同伴させたのはまだ早かったかと後悔しかけていた。「やっぱりシンとは付き合えない」などと言い出すのではと内心気が気でなく、だから自分が落ち着くためもあって途中ミサに寄ったのだが。それがよかったのか暁も少し元気になったようだ。
「ありがと、シン。連れてきてくれて」
「恋人ならこれくらいして当たり前だろう?それに恋人じゃない頃からお前の要望にはいつも応えてやってただろうが」
「ふふ。そうでした」
ぎゅっと腕を絡めてくる暁は先ほどテラスで見たときと比べて表情も明るい。・・・いや、そう見えるように振る舞っているだけかもしれない。暁は父親にあまり愛されなかったというトラウマもあって甘え下手だ。寂しいとかつらいとか、そういう負の感情を自分の中で溜め込んでしまう傾向がある。宵闇に紛れて判りづらいがどこか無理にはしゃいでいるように見えるのは気のせいではないはずだ。
「パーティはどうだった?」
「え?」
「つまらなかったか?」
「・・・そういうわけじゃないけど。でもそうね、あたしにはまだちょっと早かったかな、なんて。このドレスが似合うほどまだイイ女になれてないみたい、あたし。折角素敵なドレス、シンに買ってもらったのに・・・・ごめんね」
一瞬揺れた瞳に、思っていた以上に暁を不安にさせてしまっていたのだと、シンは今更気付く。
「そんなことない。さすがジェシカの見立てだと感心した」
今はコートに隠れていて見えないが、本日の彼女の装いはデコルデと背中が広く開いたミニのイブニングドレスだった。鮮やかなオーシャンブルーのチュールドレスは暁の若さと可愛らしさを引き立てており、シンの理性を崩すには充分で。
加えて十代の東洋人の娘が珍しかったせいか、パールビジューのコームを挿した艶やかな黒髪の可愛らしい少女はどこへ行っても人目を惹いた。シンのパートナーだということを抜きにしても会場の若い男たちの注目を浴びていたことなど暁は知らず、シンは別の意味でヒヤヒヤする羽目になったのだ。
「ジェシカったら、『日本でもモデルやってたんだからこれくらい着こなせるでしょ』なんて言うんだもん。あたしはティーンエイジャーのカジュアルコーデのモデルであってパリコレのトップモデルじゃないんだから。こんなドレス、親戚の結婚式以来だよ」
「そっか。・・・・また着せてやるよ、お前が着たいのならいくらでも。何ならニューイヤーのパーティも一緒に行くか?」
「あー・・しばらくはいい、かも。正直、ドレスの値段見て目眩がしたもの。・・・・そうね、今度アカデミー賞に出席できたらその時はお願いしようかな」
「そんなことか。じゃあ来年はハリウッドから招待状が貰えるように早速手配しておく」
「ちょっと!冗談に決まってるでしょ!?」
そういうのやめてよね!と慌てる暁にシンはくつくつと笑う。長い髪も綺麗に結い上げているから、いつもするようにくしゃくしゃと撫でるわけにもいかず、シンは代わりに華奢な躯を冷たい空気から守るように背中から抱きしめた。
ひどく甘い声が「アキラ、」と呼ぶ。
「なあに?」
「ドレスだけどな。・・・・すごく、似合ってた」
「えーと・・・それは、あの、ありがと・・・・・」
急に真面目な声で真摯に褒められ、暁は視線をツリーに向けたまましどろもどろで礼を言った。そんな暁にシンは愛おしさに抱きしめる力を込める。そして寒さだけのせいではなく赤くなった彼女の耳もとで囁いた。
「まったく、参ったな。・・・・今すぐ押し倒したいほど綺麗だ」
「な、何言ってんの!?」
ぎょっとして背後を振り返った暁の頬に小さくキスを落とすと、シンは人の悪い笑みを浮かべる。
「挨拶回りばかりでさっきはお前のドレス姿もじっくり見れなかったからな。あとでゆっくり堪能させろ」
「え」
「二人で過ごす初めてのイヴだろ?・・・・・一緒にいたいんだ」
目を丸くして躯ごと向き直った暁の頬を両手で包み、シンは熱っぽい視線を隠しもせず自分を見上げる歳の離れた恋人を見つめ返した。
「今夜は離してやらない」



***



「うわぁ・・・・すご・・・・」
クリスマスツリーも美しかったが、高級ホテルのスウィートルームから見る夜景も素晴らしかった。
大きなベッドの上でシーツにくるまったまま、暁は視界いっぱいに広がる大きな窓の外をうっとりと眺めた。
窓の下を覗き込めばさっきまで見上げていたクリスマスツリーが眼下に見える。サプライズだとシンは悪戯っぽい顔で平然としていたが、いつの間にこんな部屋を予約していたのだろう。これほどの部屋を簡単に押さえてしまうあたりがさすがセレブだ。
しかしそのさすがの彼は、部屋の豪華さも夜景の素晴らしさもまったくどうでもいいらしかった。
最上階のゴージャスな部屋に届けられていたこれまた最高級のシャンパンで乾杯した後ーーーーとはいえ、暁は未成年なので軽くグラスに口をつけるだけだったがーーー夜景をゆっくり眺める暇もなく本当に文字通り押し倒された。いつものような、大人の余裕なんかない性急なキスの嵐を受け、やや強引とも思えるほど何度も抱かれて暁はとても夜景どころではなくなった。
意識が浮上した時にはシンは既にシャワールームで、シーツにくるまれただけのあられもない自分の躯を見て暁は小さく悲鳴を上げた。
「ちょっと・・・!こんなにいっぱい痕つけたら帰る時ドレスから見えちゃうじゃない!」
そのドレスもベッドのまわりに放りっぱなしになっており、暁は溜め息をつく。
「・・・・なーにがドレス姿をもっと見たい、よ。結局殆ど見てないんじゃないの?」
ーーーーでも、ただの女の子のあたしにはちょっと贅沢すぎるイヴだよね。
心地よい気怠さとふわふわした浮遊感がまだ躯から消えない。
「上からツリーを見下ろすなんて滅多にできない経験だなー・・・」とぼんやり景色を見つめていると、シャワーを浴びたシンがバスローブ姿でベッドルームに戻ってきた。
「こういうの好きだろ、女は」
暁の独り言が聴こえていたらしい。得意げにそんなことを言うシンが面白くなく、暁は目を眇めてじろりとシンを見た。
「へえ~、今までこういう演出をいっぱいしてきたみたいだからよくご存じですこと!」
「お前・・・揚げ足とるなよ」
心底嫌そうな顔をして暁の額をピンと弾く。痛いなあもうっと額を擦りながら暁はグラスに残っていたシャンパンを水がわりに煽るシンにふと訊ねた。
「ねえ」
「あ?」
「どうして急にパーティに連れていってくれたの?本当は連れてく気、なかったよね」
「なんでそう思う?」
「だって今日のパーティはずっと前からスケジュールに入ってたものでしょ?なのに1週間前になって急に誘うなんておかしいもの。小英にもさっき聞いたわ。私の出席をあとからホストに打診したって」
「気が変わったんだ」
ガシガシとバスタオルで髪を拭きながら、シンは暁の横にどかりと腰を下ろした。はずみでベッドのスプリングが跳ねる。シーツを巻き付けたままの暁の乱れた髪を軽く梳いてやると、シンは渋々といった様子で口を開いた。
「お前、オレがクリスマス仕事かもって言ったらあっさり納得してさっさと他所のパーティに行こうとしただろう」
「え、でもマックスたちとのパーティはシンだって後で行くって言ってたから・・」
「そっちじゃない、学校のほうだ」
「・・・・ああ、プロムのこと?」
シンに言われて暁は記憶を辿った。ーーーーーそう、12月に入ってすぐ学校の友人たちが有志で企画したダンス・パーティに誘われていたのだ。だから昼間はプロム、夜はマックス宅へ、と思っていたのだが。
「お前、俺が誘わなきゃそっち行ってたろ」
「そりゃ・・・。こっちの学生のプロムってどんなのか興味もあったし、夕方までだったらいいかなって」
「プロムだったらパートナーがいなきゃダメだろうが。何人かに誘われたな?」
うわ、バレてる。なんで!?と暁は内心で叫んだ。
実はリークしたのはジェシカやその息子のマイケルだったりするのだがーーーーネタはあがってんだと言わんばかりにシンにじろりと睨めつけられ、暁はしかたなくぼそぼそと白状する。
「えーと。誘われはしたけど、別にOKしてないよ?」
「当たり前だ、バカ!それよかお前、ちゃんと恋人がいるって断ったんだろうな!?」
「ステディな人がいるって言ったよ。それに無理にパートナー作らなくてもいいんでしょ?もともと女友達と行くつもりだったし」
「俺は他のパーティに行くとか聞いてないぞ。まったく、プロムに行きたいなら一言そう言えば俺が一緒に行ってやったのに」
「へ?まさか、誘ったら学生のプロムなんかにわざわざ出てくれたってこと?」
「・・・・・。あ〜・・・・・無理っぽいな」
「だよね。今日だってギリギリまで仕事だったもんね」
「それはそれとして、クリスマスくらいもっと甘えてもいいんだぞ?お前は我が侭言わなさすぎる」
「それは・・・・だって、しょうがないじゃん。シンがいつも忙しいの知ってるし、仕事だって判ってるのに我が侭なんて言えないよ。シンだって本当にあたしがごねたら困るでしょ?」
「そうだけどさ・・・けどな、男は好きな女に甘えられると嬉しいもんなの!もうちょっと我が侭言うくらいでお前はちょうどいいんだよ、きっと。顔色も変えずに『あ、そう。じゃあしょうがないね』なんてあっさり言われてみろ、こっちが傷つく」
オレのことなんてどーでもいいのかと思って焦るだろうが、とぼやくシンに、暁は一瞬呆気に取られ次いでプッと吹き出した。
「なに笑ってんだ!」
「だって。シンってばコドモみたい」
ケラケラと笑ってるといきなり顎を掴まれて強引にキスをされた。
「ん・・・、」
角度を変えて何度も唇を啄まれる。舌を割り入れられ、シャンパンの味が口腔いっぱいに広がりしばし甘いアルコールの余韻に浸る。深いキスに翻弄され暁の息が上がってきたところでようやくシンは唇を離した。
「・・・コドモはこういうことしないぞ」
「だから、そーやってムキになるとこがコドモっぽいって言ってるの」
揶揄かうとシンはほっとけ、とぷいと顔を背けまたシャンパンを煽った。
いい歳してカワイイ。シンのこういうところが好きだと暁はしみじみ思う。自分との年の差をあまり感じさせない、いまだ少年のような顔をする時のシンがすごく愛おしい。
暁はまだくすくすと笑いながら、そっぽを向いたままの彼の首に腕を廻して抱きついた。思いっきり体重を掛けるとシンは「うおっ」と暁を身体ごと受け止めそのまま二人してシーツの海にダイブする。
「なになに、一応ヤキモチ妬いてくれたってこと?」
「悪かったな!だいたい、こういう時はフツー、女のほうが色々気にするもんだろ。お前こそなんだその余裕は。聞き分けよすぎだぞ」
仰向けに寝転んだシンの胸の上に乗っかったまま、暁は呟く。
「別に余裕なんてないよ。今日なんか特に落ち込んだもん。やっぱりあたしなんかよりもっと大人の女の人のほうがシンの隣には似合うなぁなんて思っ、」
暁はそれ以上先を言わせてもらえなかった。
「・・・・・ちょ、んーーー・・・っ」
もう一度唇を塞がれ、きつく抱きしめられたあと怖いくらい真剣な顔をしたシンに暁は息をのむ。
「冗談でも、二度とそんなこと言うなよ。俺が選んだのはアキラ、お前なんだ。この俺が、お前がいいって言ってるんだ・・・・自信持て」
「あたし、シンに釣り合うようなイイ女になれると思う?」
「お前はもう充分イイ女だよ」
「・・・・これ以上プレッシャーかけないでくれますか・・・」
「俺も結構プレッシャーかかってるんだけどな。なにしろ、もうすぐ三十路のオヤジだし?」
大げさに溜め息をついてみせるシンの頭をよしよしと暁は撫でる。
「大丈夫、シンってばとても30前には見えないから」
「コドモっぽくヤキモチ妬くしな?」
「そうそう」
額をくっつけあってふたりでくすくす笑う。
「merry X'mas」
「lovin' you、」
「me too・・・・」
再び覆い被さってきたシンを受け止め、暁はその背中に腕を回した。

不安も怖れも喜びも悲しみも全部、ふたりで分け合って。
求めあう想いも、孕む熱すらふたりで共有できる今この時間が愛おしい。
聖夜にふたりで見る夢はきっと同じーーーーちょっとだけ先の、ともに歩いている未来のはずだから。


眠りに落ちる寸前、暁は教会で耳にした賛美歌の音色が聴こえた気がした。









*****************************************************
最後、焦って書き上げたのでどうにもやっつけ仕事な感が否めませんが・・・結局私ってばシンと暁を、アッシュと英二に重ねて見てるのかなと思います。原作のシンはアッシュがしたくてできなかったことを代わりにやってるのかな、とね。とにもかくにも小娘に翻弄される三十路前っていうのがいいですねっvツリーが見えるホテルの部屋がはたして本当にあるのか知りませんが、いろいろ捏造してる部分はかるーく流してくださいね。あ、ちなみにラスト、この夜が二人の「ハジメテ」ではないつもりです(笑)。正直どっちでもいいといえばいいので、特にそこらへんにはあえて触れませんでした。読まれた方の想像にお任せってことで。



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【 2013/12/24 】 SS | TB(-) | CM(0)
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プロフィール

チャコ@まま

Author:チャコ@まま
関西在住のおたママ。
只今三人の息子達を相手に育児奮闘中。

マンガ・小説・アニメ・特撮・舞台・ジャニ等、大好きなもの雑多な管理人です。
09/侍の殿様と11/海賊の船長と単車乗りの鳥系幹部を愛してます。現在、人類最強兵長敬愛中。

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