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SS『いのちの螺旋のその先に』

進撃SS『いのちの螺旋のその先に』です。リヴァペトーーーというよりリヴァイ→ペトラかな。


アニメ22話をふまえたその後のお話。
あの悲しい結末を少しでも意味のある、先に続くものにしたくて書いたお話で、自分でもこのお話は密かに気に入ってるんですが、支部でもびっくりするくらい皆様に評価していただいてすごく嬉しかったですね。



進撃/リヴァペト









狙いを定め白刃を閃かせて空を駆けぬける、その一瞬。
頬を切るように掠めていく風の音にまじって、リヴァイの耳にいつも聴こえる声がある。





リヴァイ兵長・・・・ねえ、兵長。
誰でもいつか、天に召される時がくるんです。
それが早いか遅いか、それだけのこと。
どれほど過酷な人生だろうと、どんな最期を迎えようと、いきつく先はきっと同じ。
私は私の人生をちゃんと生きた。
後悔もやり残したこともあったけれど、それでも精一杯毎日生きたと胸をはって言えるから。
だから、悲しまなくていいんです。


・・・・ねえ、兵長。
私の最期は忘れてください。
それが私の望みです。

私の朽ちた骸はいつしか土に還り、芽吹く緑になるでしょう。
私の魂はそっとあなたに寄り添い、あなたの傍でその生を見届けることでしょう。
躯は朽ちても私の心はいつまでもあなたとともに。
だから、自分を責めなくていいんです。


・・・・ねえ、兵長。
あなたが人恋しい時は、私は鳥になりあなたの肩で囀るしょう。
あなたが泣きたい時は、私は時に雨となって泣けないあなたのかわりにその頬を濡らすでしょう。
あなたが話をしたい時は、私は風になってあなたと会話をするでしょう。
あなたがひとりになりたい時は、夜の闇となってその姿を隠すでしょう。
あなたが心安らかな眠りを欲するなら、私は月になって優しく子守唄を歌うでしょう。
あなたが道標を見失ったら、私は一筋の光となってあなたの行く先を照らすでしょう。

リヴァイ兵長・・・・ねえ、兵長。
あなたはそこで見届けてください。
私が生きた世界のその終焉を。
そして生きてください。
あなたが諦めなかった、希望に満ちた新しい世界を。

きっといつか私もあなたも、いのちの螺旋のひとつになってまたどこかで巡り逢う日がくるでしょう。
だから泣かなくてもいいんです。
永く生きられなかったたくさんのひとたちの分まで生きて生きて、生き抜いて。
そしてどうか幸せにーーーーー・・・・





***






リヴァイがその場所に立ったのは「あの日」以来だった。

巨人が滅されその脅威が消えてから、人類は長く失われていた世界を取り戻した。
希望に満ちた若者たちは新天地を求め、次々と壁外へと旅立った。
リヴァイは他の生き残った幹部たちとともに事後処理に追われ、相変わらず壁内に留まっていた。
随分と長い間かかってやっと仕事が一段落した頃、調査兵団を辞め野に下ったリヴァイは晴れて自由の身になった。そして彼が向かった先は新しい世界ではなかった。リヴァイが選んだのは新天地への冒険ではなく、かつて散っていった部下たちの痕跡を探して偲ぶ旅だった。

思いつく限り方々を巡った後、リヴァイが最後に向かったのはウォールマリアの敷地内の、とある場所だった。
その日は暖かく、空はどこまでも青く澄んで、まるでリヴァイを待っていたかのように優しい風が吹いていた。
「遅くなったな・・・・・ペトラ」
墓標も何もないその場所は開拓が進むマリアの中でもまだ未開発で、見渡す限りあの頃とあまり変わることのない平野が続いていた。
けれどリヴァイが「そこ」だとすぐに気付けたのは脳裏に焼き付いた彼女の最期が忘れられないということの他に、明らかに他の土地とその場所の様子が違っていたからだった。
「・・・・・お前、俺が見つけやすいようにしてくれたのか?」
リヴァイの目の前に広がるのは一面の花畑だった。
この色とりどりの花の中のどこかにきっと彼女の骸があるのだろう。否、もう土に還ってしまって何も残ってはいまい。
それでいいのだろう。彼女が羽織っていたマントの切れ端でも目に映ろうものなら、今度こそリヴァイは平静を保っていられる自信がなかった。
ーーーーあの日あの時。
ペトラの遺体を投げ捨てた場所がなぜこんな花畑になっているのか、リヴァイにはその理由がわかっていた。
「お前の望んだとおりになったな・・・・」


ペトラが生前、何度目かの壁外調査の出発前に小さな包みを兵服のポケットに入れているのをたまたま見かけたことがあった。
「なんだ、それは。・・・・家族の写真か何かか?」
平素のリヴァイならそんな個人のプライベートを訊ねることはしない。しかし何となくその時はふと訊いてみたくなったのだ。何故ならその包みをそっと胸ポケットに忍ばせたペトラの表情がひどく優しげで、それでいてどこか切なそうに見えたから。
「あ、見つかっちゃいましたか」
「恋人からの贈り物でも入れてんのか」
「まさか。私にそんな人がいないことは兵長だってご存じじゃないですか」
ひどいですと頬を膨らます彼女に僅かばかりの安堵を覚えつつ、目で先を促すとペトラはわざわざポケットから包みを取り出し、リヴァイに中身を見せた。
「これ、花の種なんです」
「花の種?」
「ええ。いろんな種類の種を入れてあるんですけど」
ペトラが包みから手の平に少しだけ種を出した。覗き込むと様々な形の種があった。
「なんだってそんなものを」
「・・・・。私が壁外で死んだ時のためですかね・・・」
種を見つめながら、憚るように密やかな声で縁起でもないことをさらっと言うペトラの顔を思わず見る。
「前回の壁外調査で同期の友人がまた一人死んでしまいました」
「・・・・・」
「班が違ったので帰還後に知ったんですけど。巨人の数が多くて遺体を持って帰れなかったと他の同期に聞きました」
リヴァイは黙って聞いていた。そういうことは多々ある。実際のところ、遺体を完全な形で連れて帰れることのほうが稀だった。
「しかたのないことだって判ってます。でも割り切れない思いもやっぱりあって。次は私かもしれないって時々怖くて不安になることだって・・・正直あります」
ペトラは種をそっと袋にしまうと両手でぎゅっとそれを包みこむ。
「だから、もし・・・もし私が壁外で死んで、連れて帰ってもらえなかった時にこれが少しは慰めになるかと思って」
「・・・どういう意味だ」
「こうやって兵服のあちこちに種をしのばせておくんです。放置されたままの遺体はそのうち朽ちて土になりますよね。そしたら種も一緒に土に残って、きっと遺体を養分にして新しい芽を出すと思うんです。そしたらほら、花のお墓ができるでしょう?」
えへへ、と少し笑った後、いつも以上に表情の読めないリヴァイの顔を見て、ペトラは眉を下げしゅんと俯いた。
「こんなこと考えて、私ったら不謹慎ですよね。すいません・・・」
「・・・いや」
不謹慎というよりは不憫だとリヴァイは思った。同じ年頃の町の娘は男に花を贈ってもらうことを考えているだろうに、目の前の彼女は自分の死に際を花で埋めることを想像している。
返す言葉が見つからないリヴァイに、ペトラは何となく沈んでしまった場の雰囲気を取り繕うようにわざと明るい声を出した。
「マリアを奪還してまた行き来できるようになったら、友人が亡くなった場所を捜して、そこに花を植えてあげたいんです。あの子も花が好きだったから。だからそれまで頑張って生き残らないと!」
種をまた胸のポケットにしまい、その上から慈しむようにぽんと軽く叩いた彼女は不安も哀しみも全て飲み込み、精一杯の笑顔をリヴァイに向けた。
その儚くも強いペトラの微笑と眼差しは、その時のリヴァイにはひどく眩しく映った。
花を手にするかわりに剣を持ち、同じ翼で駆ける少女の凛とした表情が美しいと秘かに思ったのだった。

しかし結局、ペトラは友人に花を手向けに行くことなく命を散らし、彼女の友人と同じように打ち捨てられたーーーーー当のリヴァイによって。



何も始まっていなかった。まだ、なにも。
リヴァイさえ彼女を振り返ってやれば何かが始まっていたかもしれないのに。
ペトラが自分に向ける尊敬以上の思慕には気付いていたが、知らないふりをし続けたのはリヴァイだ。
彼女はそれを望んでいないと勝手に都合よく解釈して、恋愛事にうつつを抜かしている場合ではないと自分に繰り返し言い聞かせてはいなかったか。
せめて抱いてやればよかったのかもしれない。そうすれば少しは慰めになっただろうか。そこまで考えてそんなものはただの自分のエゴ、自己満足だと思いなおす。真摯に生きた彼女に対する侮辱だろう。
彼女の想いを顧みず、自分の彼女への想いにも見て見ぬふりで蓋をして、その果てにやっと掴んだ自由以外いまのリヴァイにはもう何も残ってはいなかった。

皆が言う。
次はお前の番だ、せめて彼女の分まで幸せになれ、彼女もそれをきっと望んでいるだろうーーーーと。
勝手なことをほざくなと怒鳴りつけたかった。確かにあいつが言いそうなことだ。だからといってあいつの気持ちを知ったふうに代弁するな。
たとえあいつがそれを心底望んでいたとしても、俺はあいつがいないと幸せになんかなれない。
あいつが俺の傍にいてはじめて、俺は幸せとやらを感じることができる。
そんな簡単なことに、失ってから気付いたところでもう遅い。
きっと愛していた。そして、愛されていた。
ーーーーいや、今でもずっと・・・・愛している。


むせ返るような花の香りの中に立ち、リヴァイは静かに彼女を想う。

・・・・なぁ、ペトラよ。
お前、どれほどの種をその身にしこんでいやがったんだ?

ペトラが言っていたようにその骸は花の苗床になったのだろう。
朽ちた躯は雨風にさらされやがて土に還り、ポケットの中の種から芽吹いた花たちは美しく咲き誇り新しい種を飛ばす。鳥や虫が花から花へと花粉を運び、風が運んできた種子もまた、彼女を覆うようにまた別の花を咲かす。
連れて帰ってやろうと思っていたのに。
自分にはこの美しい墓を暴くなんて、できない。

ーーーー兵長、どうですか?きれいでしょう?私の言ったとおり、花のお墓になったでしょう?ーーーー・・・・
そんな彼女の声が聞こえてきそうなほどに、この場所は美しく優しい。まるで彼女そのものだ。そうやって、彼女はリヴァイの罪さえも許してしまうのだ。
「そうだな、きれいだ。・・・・お前の墓にはこれ以上の場所はねえな」
返ってくる声はない。だが返事のかわりに足もとで小さな白い花がそよそよと揺れた。
屈んでその花びらに触れると、リヴァイは彼女の面影を瞼裏に描きながらそっと口づける。
「なぁ、ペトラ。・・・・俺がこの場所を貰ってもいいか?」

お前の眠りを誰にも邪魔されないように、今度こそ俺が守る。



ーーーーその後リヴァイは、今までたいして使うこともなかった自分の給付金でその土地一帯を買った。
周りの人間は「なぜそんな不便な場所を」と訝しんだが、彼は一向に頓着せずまた多くを語らず、その土地に小さな家を建て隠居同然で移り住んだ。彼の心の裡を知るごく一部の者たちは彼の行動にただ黙って最後の敬礼でもって見送った。
時折彼の知己や若い部下たちが彼の家を訪れた。たびたび壁外の話をして彼を外の世界へと誘ったが彼はついに一度も腰を上げることはなく、生涯彼女の眠りを守るようにそこを動くことはなかった。
ただ「外の世界の花がほしい」とだけ言い、部下たちは彼の唯一の希望を叶えるため競うように各地の土産話とともに様々な種を持ってくるようになった。それは彼が亡くなるまでずっと続けられたという。
家の周りを囲むように少しずつ大きくなっていった花畑は、たちまち新しい花を増やし、いつしかそこは花の名所になるのだが、それはまたずっとずっと先の別の話だ。

青年になった彼の部下はかつての英雄の静かな死を看取った後、遺言どおり彼女が眠る花の中に彼を葬った。
「人類最強とか英雄とか、そんなくだらねえ墓碑銘などいらん。あいつと同じようにただここに打ち捨ててくれたらいい」
彼のそっけない最期の言葉を思い出しながら、部下の青年ーーーーエレンはかつて彼がそうして彼女に想い馳せたように、花の中で立ちすくむ。
「兵長。・・・・・彼女にはもう、逢えましたか?」


ねえ、リヴァイ兵長ーーーーー・・・・・





***








たなびくマント。閃く白刃。頬を切る風。
その中でいつも聴こえる声があった。

ーーーーあなたは、生きて。





「ーーーー・・・・・」
ふと、目が覚めた。
ゆっくりと瞬きするとぽろりと片方の目から涙が一粒零れ、それを指先で拭う。
見慣れた自分の部屋の天井をベッドの上からしばらく眺め、ああ、またあの夢を見ていたのかとぼんやり思った。
部屋の中は薄暗いが、どうやらもう朝も遅い時間のようだった。その証拠に手を伸ばした隣のスペースのシーツが冷たい。
いつから起きてんだ、あいつ。
起き抜けに隣の温もりがないことにやや不満を覚えつつ耳を澄ますと、寝室の向こう、リビングのほうから微かな物音が聞こえた。いつもの習慣で彼女はコーヒーでも淹れにいっているのだろうと察しがついた。ブラインドを引いたままの窓の外からは雨の音。夜半から降りだした雨がまだやんでいないらしい。
せっかくの休日だってのに。今日は出掛ける予定だったが雨では外出も億劫だ。
そんなことをつらつら思ったところで、かちゃりと部屋のノブが回る音がした。ドアが開くと同時にふわりとコーヒーの香りが部屋を満たした。
「あ、起きてました?」
「ああ・・・・」
寝起きが悪い俺はこの時間はいつも気怠い。だが彼女が泊まりにくる休日の朝だけは悪くないと思う。挽きたてのコーヒーの香りと恋人の柔らかな声に起こされる至福の時間。
湯気のたつマグを手に部屋に入ってきた彼女は素肌に俺のシャツを一枚羽織っただけのあられもない格好だった。ここまで俺の前で無防備になれる女にするにはかなりの夜を超えなければならなかったが、その甲斐があったと見えて俺が扇情的なその姿を目で追ってもあまり気にした様子もなく彼女がベッドに近づいてきた。そしておはようございます、と律儀に朝の挨拶をし、艶かしい格好や今日の天気とはほど遠い爽やかな笑顔を向けてきた。
「ふふ、ちょうどよかった〜。コーヒー淹れたからそろそろ起こそうかなって思ってたんです」
「いま何時だ」
「んーと、9時過ぎくらいですかね。そろそろブランチの時間に・・・、」
言いかけた彼女が俺を見て少し眉根を寄せた。マグをそっとサイドボードに置くと、ベッドに手をつきじっと俺を見つめてくる。前が殆どはだけた状態で身を乗り出してきたりしたらいろいろ丸見えだろうがと口を開きかけたが、思いのほか彼女が真剣な顔をしていたので言うべき言葉が出てこなかった。
「どうしたんですか・・・?」
「何が」
「・・・・・だって、泣いて・・・・・?」
顔を覗き込まれ、目元を細い指がなぞる。暗くてわからないだろうと思ったのに涙の跡を目敏く見つけられてしまった。
いい歳して夢を見て涙を流すなど、かっこわりぃ。
気まずさを隠すように彼女の頭を胸に押さえつけ顔を見られないよう抱きすくめる。
「ちょっとリヴァイさんっ、苦しいんですけど」
「・・・・ペトラ」
「はい?」
彼女ーーーーペトラを抱きこんだまま何となく口を開いた。
「・・・・なぁ、お前、変な夢を見ることないか?」
「・・・・変な夢?」
「例えば・・・・何か軍隊のようなところで仕事しているとか、時代錯誤な設定の世界で生きてるとか・・・・」
ペトラにその夢の話をするのはこれが初めてだった。
「・・・・?何ですかそれ」
くすくすと胸で彼女のくぐもった笑い声が響く。その密やかな忍び笑いがこの上もなく温かく、脳裏に燻っていた夢の残滓が消えていく。我知らず安堵し大きく息をついた。くそ真面目にたかが夢の話なんかした自分が急にバカらしくなる。
「コーヒーくれ」
「あ、はい」
二人してベッドの上に起き上がり、枕を背にしばらくコーヒーの味と香りを楽しんだ。猫舌のペトラは熱いコーヒーを飲めない。ふうふう息を吹きかけ冷ましながら、ペトラはさっきの話を蒸し返してきた。
「ね、さっきの。夕べ観た映画のせいですかね・・・・眠る前に見たものが夢に反映されるってよくあるし」
「そんなんじゃねえよ。今日たまたま初めて見たっていうんじゃなく、前から何度か見てるんだ」
世界滅亡を誰かが戦って救う、ありがちなエンターティメントのDVD。確かにベッドに入る前に二人で観ていた。だが目が覚めた途端に急激に薄れていく、映画よりリアルなそれは俺がたまに見る夢だった。

その夢はたいてい、今日のような湿気の多い暗い雨の日の明け方に見ることが多かった。多いといっても1年でせいぜい2、3回程度だ。ピントの合わないカットされた映画のフィルムのようで、見始めたのはいつからだったろうーーーーその辺の記憶は曖昧だ。気がついてみればどうも同じ設定の夢をみているらしいという程度のものだった。切り取られた断片的な映像ばかりだったし、たかが夢と今までたいして気にもしていなかった。
ある時は何かと戦う自分だったり、ある時は聳え立つ壁の景色が延々と続くだけだった。そしてまたある時は馬で平野を駆けていたり、血しぶきが飛ぶような凄惨な光景もあった。同じような格好の仲間らしき者たちと一緒に酒を飲んで騒いでいるようなお気楽な場面もあったが、とにかくどうやらあまり幸せな世界ではないらしいということは判った。そのせいか夢を見たあとはいつも後味の悪さだけが際立つ。起きた時、剣のようなものを握っていた感触がまだ手に残っているようで一日中気持ち悪いこともあった。
そしてペトラが夢の中の自分の傍にいる、と思うようになったのはごく最近のことだった。これも顔がはっきりしているわけじゃなく金の髪にぼんやりとした顔の輪郭だけだったがーーーいや、夢を見ている時はきちんと顔が判別できているのかも知れないが、起きると憶えていないので定かではないーーーーそれはペトラだとなぜか俺は確信していた。
ペトラが夢の中で自分の部下だ、と思ったのもただの勘だ。細かい設定なども知らない。映像は色がついていたりモノクロームだったり、音も匂いもなかった、ように思う。そして起きた瞬間からそれらの細部は端から忘れてしまう。まるで現実世界を拒否するように記憶から閉め出されるのだ。

ぽつぽつとそんなことをペトラに思いつくままに語ると、彼女は不思議そうな顔で俺に訊く。
「いつもそんな夢見てるんですか?なんだかファンタジー小説か何かみたいですね」
「・・・・ハッピーエンドになりそうもねえけどな」
「ふぅん・・・・時代錯誤って昔っぽいってこと?」
「今ほどいろんなことが発達してない。中世時代に近いかもな。足は専ら馬や馬車で生活の主な基盤は農耕らしい。・・・ああ、王制だったような気がする。そこの軍隊みてえなところで、お前が俺の部下だったりとか」
「ふふ、あまり鮮明じゃないって言ってるわりには結構憶えてますね?」
「そうだな。人に話すと意外と具体的に話せるな・・・」
「そっかぁ私、リヴァイさんの夢の中で同じお仕事してるんだ・・・」
「・・・・そうなるな」
「それ、ちょっと嬉しいかも」
私、あなたと同じ職場じゃないしと言ったあと、でもと彼女は言葉を続けた。
「軍隊・・・って、戦争でもしてるのかしら」
「さぁな。そこまではよく覚えてねえ」
ーーーーにしても、普通の戦争ではないようだ。気味の悪いでかい化けもの、身体を覆う不可解な道具、空を駆ける自分、そんな自分に続く他の兵士たち。殺伐としたどこか絶望的な世界。
「それで今朝も、そんな夢を・・・?」
俺の涙を見たせいだろう。ペトラが幾分心配そうな目で問いかけたが、そうじゃない。
「いや、今朝は・・・・」
今朝の夢はそんなんじゃなかった。
確かにいつもの夢と同じものを見ているという認識はあった。だが戦いだの化けものだのそんなものは一切なく、翼のような紋章が縫い取られたマントが風にたなびく様や、刃を手に空を駆ける自分の姿を上から見下ろしているような感じだった。そして急に切り替わる映像。鮮明に浮かぶのは一面の花の群れ。ただずっと揺れる花ばかり見ていたような気がする。胸を占めるのは切なさと喪失、愛しさだけ。
きっと、俺は。
正確には“夢の中の俺”は、その世界で愛しい誰かを失くしたのだ。
だからこんなにも胸が痛い。夢の中の俺の代わりに“今の俺”が涙を流すほどに。
誰かーーーーなんて、決まってる。
「正直、見たい類いの夢じゃあねえな。悪い、変な話をした・・・・寝なおすか」
空っぽになったマグを再びサイドボードに戻し、傍らの柔らかい躯を失わないようぎゅっと抱きしめた。
「え、起きないんですか?」
「夢見が悪かったからもうひと眠りする。だいたい寝たのだって殆ど朝だったろうが」
「それはリヴァイさんのせいだもん・・・」
俺に抱き込まれたまま、ペトラが恥ずかしそうに自分の胸元に視線を落とした。シャツの隙間から覗く白い肌のあちこちに残された鬱血痕が昨夜の情事の激しさを物語っていて、俺がつけたとはいえこれはちょっとひでえな、と内心で苦笑した。
「しょうがねえだろ、お前が可愛いのが悪い」
「なっ、なんですかそれ!」
意味わかんない、と頬を羞恥で染め唇を尖らす無自覚な恋人を腕に抱いたまま縺れるように寝転び、鎖骨の紅い痕をなぞるように上からまた唇で強く吸い付く。途端、ペトラが鼻にかかった甘い吐息を漏らす。愛撫を受けながらもペトラはまださっきの話を考えていたらしく半分上の空で呟いた。
「さっきの夢・・・、もしかすると前世の記憶とかかもしれませんね・・・」
俺は埋めていたふくよかな胸から顔を上げ、ペトラの顔を覗き込んだ。
「あ?リインカーネーションとかか?お前そんなもん信じてんのか」
「んー・・・・別に信じてるとかじゃないですけど。でももしそうなら前世であなたと出逢った私は部下としてあなたを尊敬して、一生懸命ついていったんだろうなって思うんです。それできっと今みたいにやっぱりリヴァイさんに恋してたんじゃないかしら」
俺は応えようがなく、黙ってペトラの話を聞いていた。
「あなたは今でもそうだけどーーーけっこう年上だし、見た目怖いし、しかも上司だったのなら尚更気持ちを伝えられなくて、それで私は遠くでそっと見てるだけだったんだと思うの。結局片思いのまま終わってしまって、こっそり泣いちゃったかもしれない」
「ほう・・・・。で、今は?」
訊くと、ペトラは悪戯っ子のような表情で俺を見た。
「きっとね、前世で結ばれなかったから今の世でリヴァイさんが頑張って私を見つけてくれたんでしょう?」
「・・・・そうかもな」
俺たちの出逢いを思い出して二人でそっと笑う。
「ね?そんなふうに考えたら、あなたと何度も巡り逢えるのってちょっとロマンティックで素敵かなって」
「・・・・そんな甘い話ならいいがな。予知夢だったらどうする」
「戦争してるんですよね・・・それはちょっと、未来だったら嫌だな・・・・」
「あんな非現実的な世界、あるわけねえ。夢の話なんだから真面目に取るな」
「言い出したのはリヴァイさんでしょう?」
「そうだったな」
その話はもういいだろうとペトラの唇に自分のそれを押し付け黙らせると、ペトラがふにゃりと笑った。それに気を良くして甘く香る髪に指を差し入れ、額からこめかみ、鼻先へと唇で辿るとくすぐったいと首をすくめながらも腕を俺の首に回してきた。啄むだけのキスや軽く触れるだけの愛撫はペトラの好むことのひとつだ。だから本格的に抱く前は存分に甘やかす。
俺に乱され我を失って女の顔になるペトラも堪らないが、こんなふうに薔薇色に染まった目元や、はにかむように微笑んで自分に全てを委ねる安心しきった表情がものすごく好きだと思う。ペトラの何もかもが愛おしい。自分でもなぜこんなに惹かれるのかわからないほど、こいつのことが大事でしかたがない。
戯れの合間にペトラが囁く。
「あのね、リヴァイさん」
「なんだよ、集中しろ」
珍しく余裕のあるペトラを前に火がついてしまった俺は本格的に彼女を組み敷くと、軽い愛撫から徐々に激しいものへと切り替えていく。耳朶を甘噛みし、舌でなぞるように艶やかな下唇を食む。その一方で胸の頂を指で弄ぶとペトラの躯がびくりと跳ねた。
「あ、ん・・・あなたに未来でまた逢える、なら・・・んっ、私はどんな世界でも受け入れると、思います」
「・・・・戦争しているような悲惨な世界でもか?」
「いいの・・・・あなたに逢えない世界よりは、ずっと」
いいわけねえ。過去でも未来でも、俺はあんな世界はごめんだ。お前を失ってしまう世界など、夢の中だって我慢ならない。結局色のない世界の俺たちがどうなったのか、或いはどうなるのかーーー経過も結末も知らない。知らないままでいいと思う。限りなく悪い予感しかしないのだから。
「チッ・・・・後味悪ぃな」
「あっ、」
頭にちらつく嫌な残像を消し去りたくて、貪るようにキスをし、手は何度も滑らかな肢体を辿る。熱を孕んでいく互いの躯が、まるではじめからひとつだったようにぴたりと重なり合う。
「リヴァイ、さん・・・・」
ペトラに名前を呼ばれるたび、胸がこれほどまでに疼くのは何故だろう。
ああ、夢の中の彼女は俺の名を呼んでいただろうか。こんなふうに愛し愛される間柄だっただろうかーーーーきっとペトラの言うようにそうではなかったから、今こんなにも片時も離せずにいるのかもしれない。
全てが曖昧で混沌として、ざわざわと心が騒ぐ。まるで胸の奥にいつまでも抜けない棘が突き刺さっているかのようだ。
「ペトラ、」
彼女の名を口にするたび、泣きたくなるのは何故なんだ。

彼女が働く花屋の店先で初めて出逢った時、どうしてだか「この女だ」と直感的に思った。あの気が遠くなるような目眩に似た感覚。同時に鳩尾が甘く痺れ、今すぐ自分のものにしたいと迸る激情の波をやり過ごすのにどれほどの労力を費やしたか、お前は知らない。
無意識に「やっと見つけた」と口走り、初対面でいきなり抱き締めたその時のペトラの、鳩が豆鉄砲くらったみてえな顔があんまり間抜けできっと生涯忘れないだろう。・・・まぁ、そのあと当然引っ叩かれたが。
運命の出逢いだ、などと思わないでもないが、ペトラが言うようにロマンティックだとか三流の恋愛映画みたいな甘いもんじゃない気がして、俺はこいつに感じる多々の不可思議な想いや戸惑いをいまだに口に出せずにいる。
例えば何度言ってもなおらない俺への敬語だとか、情事の後決まってその華奢な背中にうっすら浮かぶ痣だとか、浅い眠りの中で彼女が無意識に呟く俺の別の呼び名とか。
夢に何か関係あるなと漠然と思ってはいるが、思うだけで深く考えないようにしている。考えようとすると、今が幸せだからもういいだろうとどこかで別の声が聴こえて思考はいつもそこで中断する。最近じゃ夢を見てもひたすら傍観者のように流れゆく映像を客観的に見ているだけだ。

ーーーーただ言えることは。
あの夢が過去でも未来でも。まったく別の次元の世界でも。
結局二人一緒なのは確かだということだ。互いに惹かれあうことも必然で自然なことだと思えた。
それだけは紛れもなく、俺の中では真実だ。
悪夢だろうと何だろうと。
お前がいれば、俺もそれでいいのかもしれない。
くたりと腕をシーツに投げ出した彼女の汗を含んだ髪を梳き、露になった額にそっと口づける。
「・・・・・ペトラ」
「は、い?」
「お前、いま幸せか・・・?」
「またそれですか?」
柔らかい笑みを浮かべ、ペトラはしょうがないひと、と俺の頬を両手で包む。
この夢を見たあと、俺は決まってペトラを抱き同じ質問をしてしまう。そしてその返事もいつも同じだ。判っていて尚、訊かずにはいられない。
「あなたが傍にいてくれるなら、私は幸せです」
「・・・・・そうか」
「あなたは?・・・私といて、あなたは幸せだと思ってくれていますか・・・?」
俺の答えも判っているくせに、なぜかいつも不安そうに瞳を揺らして訊くペトラが愛おしく、だが同時に切なく、俺はまたキスをしてやはり同じことを囁くのだ。
「・・・・俺も同じだ」

絡めた指もそのままに、またふたりで微睡みの中にとけていく。
この雨がやめばきっとペトラは「出掛けたい」と言うだろう。けれど今日はもうずっとこうしていたい。ただペトラだけを感じていたい。そう乞い願えば、お前は真っ赤になって困ったような顔をするだろうが、それでも結局はにかみながらも頷いてくれるのだろう。


眠りに落ちる寸前、花畑に立つ自分の足元で揺れる白い花を見た気がした。
ーーーーあなたはいま、幸せですか・・・・?

まるで子守唄のようなやさしい声が耳をくすぐる。
ーーーーああ、幸せだ。

だからもう、夢はいらない。ちゃんと、逢えたから。
やさしい声に向かってそう言うと、儚く微笑む誰かの金の髪の輪郭が、光の中に淡く滲んでゆっくりとぼやけていく。




今度こそふたりで幸せにーーーーー・・・・










***************************************************
二人とも前世の記憶なし転生バージョン。書きたかったのは2ページ目なんですが、3ページ目、何だかワンパターンなイチャコラになってしまってスイマセン。ただ彼シャツのペトラが書きたかっただけという・・・。ピロートーク的なシチュが好きなんです〜。






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【 2013/11/25 】 SS | TB(-) | CM(0)
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プロフィール

チャコ@まま

Author:チャコ@まま
関西在住のおたママ。
只今三人の息子達を相手に育児奮闘中。

マンガ・小説・アニメ・特撮・舞台・ジャニ等、大好きなもの雑多な管理人です。
09/侍の殿様と11/海賊の船長と単車乗りの鳥系幹部を愛してます。現在、人類最強兵長敬愛中。

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